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Channel: 趣味の部屋
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雁(豊田四郎)(大映東京1953年)

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雁 [1953]
 
 大映には森鴎外原作の「雁」の映画は二つあるが、これは古い方の豊田四郎監督作品である。不本意に高利貸の妾になった女が帝大生の秀才に淡い恋心を描くも結局かなわないというもの。まだ貧しかった明治時代の哀れな市井人たちの営みを、丹念に描いたのがこの映画の特長である。それはちょっと聴くと優しげな團伊玖磨の音楽が効果をあげている。
 
 これは円熟期の豊田四郎監督の手腕、成沢昌茂の巧みなシナリオ、名キャメラマン三浦光雄、大きなセットを使って明治の界隈の雰囲気を再現した伊藤熹朔と木村威夫の腕も相まって、仕上がった映画である。原作も読んだことはあるが、これといった起伏のある小説ではない。全てしがらみの中で精一杯生きている人たちがけなげに見える。敵役であるはずの高利貸の男ですら、そんな感じを持つ。この味わいは1966年の再映画化作品ではないものである。
 
 ヒロインが思慕する学生はドイツ留学が決まって、手の届かない存在になってしまう。ヒロインは結局の諦めの境地になって映画は閉じる。ラストシーンは雁が飛び去るのを見つめるヒロインのアップだったと思う。雁は自由に空を飛んでゆく、それとは違う境涯をかみしめるようである。
 
 学生役の芥川比呂志はちょっと原作とはイメージが違うようだ。また、彼にしろ、学友役の宇野重吉にしても、学生にしては歳をくった感じだ。

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