増村保造監督の中期の作品で、一番勢いがあった頃のものだろう。黒岩重吾の小説の映画化だが、会社の株を買い占める若い男が登場し、その会社の証券課長の夫人がヒロインという設定だ。題名から、メロドラマみたいだが、実は経済小説でもあり、金と欲望が渦巻くある意味で汚い人間のやり取りが中心の話だ。ここでも小気味よく、物語が展開してゆくから、飽きない作品に仕上がっている。
早口の台詞廻しは相変わらずだが、ヒロインの夫や兄がいう「男の夢」や「女の役割」なんかは今聞くと、それは違うのではないかといって内容である。1964年2月公開だから、オリンピックの直前の時代。世の中はモウレ0ツ社員が多く、しかし、何のために仕事をしているか、ともすれば見失いがちの時代でもあったのではないか。ヒロインを取り巻く身近な男性たちは依然として古い価値観と物差しで発言するから、何か勘違いしているなと思うのだが、当時はどういうふうに受け取られたのだろうか。ヒロインはそうした考えを明確に拒否して新しい生活に入ろうとするが、その相手もしがらみでたいへんなことになる。
冒頭のヒロインの入浴のシーンがタイトルバックになっている。顔が映らないところは吹き替えだと思うのだが、極めてスレスレの映像であがって下着をつけるところなどは一瞬きわどいものになっている。ガラス越しなので、映倫も通ったのであろうが、当時としてショッキングな映像だったろうなと思われる。