CSの衛星劇場で放映されたので、知った映画。解説の大林宣彦監督も企画に上がるまで、存在を知らなかったと語っている。日活には保管されておらず、九州の旧国鉄関係のところに保管されていた。しかもほぼ完全な状態である。残念ながら、この当時の作品はあってもどこかが欠けていたりするものだが、本作は例外なのだろう。鉄道関係者が記録用に保管していたのだろう。その辺の経緯は太田米男氏という映画保存にも詳しい大学の先生が、レポートをまとめておられる。こういう映画もまた監督の三枝源次郎という人も知らなかった。三枝監督は溝口健二監督はほぼ同世代で2つ若い。没年不詳となっている。前半はサイレント作品を手掛けていたが、朝日新聞の記録映画のセクションに入って、ドキュメンタリーを制作していたようだ。
映画自体もたいへん貴重だが、そこに出てくる鉄道の様子もたいへん貴重である。C51、C53、9600、8620型だけでなく8900型といった昭和初期にはきえていった機関車もまだ現役で走っている姿が認められる。1928年2月公開ということは撮影は1927年頃から始まっていたのではなかろうか。1925年に螺旋式連結器から自動連結器に一斉変更になって、まだ2~3年の頃。螺旋式で使われていた緩衝器の跡が車両に残っているのが散見される。話は九州が舞台のようだが、出てくるのは梅小路機関区であり、走行路線も京都近辺のようである。
出演は島耕二が主演で、滝花久子や山本嘉一らが助演している。島耕二は後年監督として活躍した人だが、1930年代前半までは、日活の現代劇のスターだった。「情熱の詩人・石川啄木」とか「裸の街」といった作品に主演している。これらの作品は残っているかどうか、わからないが、名作ということで文献的には名が残っている。滝花久子は田坂具隆監督の夫人になった人だが、老年になっても脇役で活躍、品のいい老婆になって映画やテレビにも出ていた。ここではヒロインを演じたスターである。山本嘉一は鉄道省長官役で登場し、貫録十分。1939年には亡くなっているのだが、内田吐夢監督の「土」の頑固な舅役や阪東妻三郎が大石内蔵助になった日活の「忠臣蔵」で吉良なんかをやっていた。そうした名の知れた人も出演、それなりに力の入った作品のように見受ける。
保存していたところ、修復してくれた人に将に感謝である。